吉田草平の普通詩作品 〔8冊の詩集から厳選〕

 

ほのぼの にやっ ゾクッ 清麗 謎解き・・詩はこんなにおもしろい!

<農作業関係の詩は、中ほどの『耕虫』『地擦り』『天地返し』に多くあります>

 

 

 

 

  4月から市民農園で畑作再開しました。慶祝!

  野菜づくりは一種の「行」だとも思っています。

         耕虫 <再掲>

 

       草が

       虫が

       土が

       大きぃい

 

       木が

       山が

       空が

       高ぁぁい

 

       地を這う

       耕す虫

       一匹

 

 

        

  このあと空は罠に掛けられ片足を失った

  09年12月現在、空は元気にしています

  お洒落 <再掲>

 

  くろねこ(くう)ちゃん

  金緑の左目と耳の間に

  うすみどりで半月形の

くっつきむしが 二つ

季節の髪飾り

 

またべつの日

額から頭にかけて

クモの巣

それも鮮やかな紗の中心部

 

野ねずみ もぐら

小鳥 トカゲ 蛇

かのヌートリアまで捕まえる

名ハンターだが

花もはじらうお年頃

 

漆黒の胴に

波うつ イノコズチ

・・・

 

頭にのせた

雪の二ひら 三ひら

・・・

 

 

 

            * 女性讃歌(オスは食われる)・・なのだ!

    (げん) (ぴん) * <再掲>

 

   私を呼ぶものがいる

 

   山家の暮らしは

  川中から古人の嘆き唄が聴こえ

  獣の気配で起こされたりするが

  谷の奥からひびいてくる

  今宵の誘いは初めて

 

  川幅よりすこし広い夜空に

  きらめく星明りをたよりに

  蛇行する道を辿り

  つめたい水につかり

  石にすべりながら遡る

  ほのかだった匂いが

まゆまゆと濃くなるにつれ

空気が稀薄になる

ゆく手を遮る林の向うが

ぼうっと明るい

もどかしく宙を歩くようにめぐる

 

おお あなたでしたか!

 

おぼろな(かさ)に包まれ

楚楚と光り立つ

白い 花

恥じらい身をよじるたび

狂おしい香がただよう

 

こころ(くる)めく一瞬 一瞬

夜明けなど永遠の彼方だ

 

谷の精よ

一期一会の理なれば

私の命を吸いとり

千年万年分

無量大数の

種を身ごもれ

川に流せ

空中に放て

  玄牝=玄妙不可思議な牝(母)性

 

  

*「最後の破滅型の文士」と先達作家に評された

野人の行く末は…?

 

 雪しまく  *烈しく吹きまくる風雪   詩集『耕虫』所収

 

       谷間の底に

降りしきる雪に誘われ

歩きに出る

川辺の竹は空気をふるわせて

居ずまいを正し

川はしのびやかに流れている

天魚としか思えぬアマゴも 

淵の底で眠っているのだろう

植林された杉檜たちは

むっそり立ち並んでいる

ふところがあたたかい

出しなに焼いた草餅だ

 

温明な生地から

内部を吹き荒れるものに動かされ

ここまで

来てしまった のだ

何処へ行くのか

 

頬被りごしに

聴こえてくるピアノの音

“乙女の祈り”

身をちぢめた家々のなかに

ああ

人がいる

団欒がある

 

草餅一つの(だん)をとりながら

どの家にも入れず

雪しまく村を

  さまよう

 

 

*春がこひしいなぁ・・

 

   (さえず)     詩集『耕虫』所収

  

  風にゆれる檜の若木のてっぺん

  ほそい脚でしっかり枝をつかみ

ちいさな胸をふくらませ

天に向かって

頬白は囀る

  ピッチュチュピーチュイピー

  ピッチュチュピーチュイピー

段々畑のいちばん下から

セグロセキレイが尾をふりふり

合いの手をいれる

  チュリチュリチュリ

 

そうだそうだ

待ちこがれたおまえたちの春だ

雪代が流れる岸辺では

ねこやなぎが芽をふき

蕗のとうが頭をもたげてるぞ

  ピッチュチュピーチュイピー

  チュリチュリチュリ

 

おれも高らかに囀りたい

縄張り宣言でも

恋をしたいのでもない

ただただ腹の底から足の裏から

囀りたいのだ

`一筆啓上仕り候`では

本家に負ける

センダイムシクイはまだ来ないが

まるで誂えたようなのをしばし拝借して

棚田の上で爪立ち

早春の空気をふかぁく吸いこみ

  焼酎一杯 ぐぃーっ **

    もう一杯 ぐぃーっ

  つぶれるまで ぐぃーっ

              

           *頬白の聞きなし

           **センダイムシクイの聞きなし

 

 

         * かくれたる代表作のひとつ

 

     水の記憶     『合同詩集10』所収

 

  裏山の沢から引いた水

汲みおいた鍋の底で

流れ込んだ葉屑や砂が

波うっている

風呂の底でも同様の姿態

 

容器に閉じ込められても

水には

生きて

流れる

記憶があるのだ

 

この惑星に誕生してから

数十億年

水は

いまも

流れ

波うちつづけている

 

 

── 私のなかで

    うごめくもの

 

 

 

        * これも忘れず代表作にいれてほしい

 

   清 浄      『合同詩集12』所収

 

  

  萬

  ・・

  ・・・

  恒河紗 (こうがしゃ)

  阿僧祗 (あそうぎ)

  那由多 (なゆた)

  不可思議 (ふかしぎ)

  無量大数 (むりょうたいすう)

 

  68個も0を並べて

  何を計ろうというのか

  大宇宙の果てまで光速で飛び

  距離をミクロンで表しても

たかだか33桁ほどでしかない

ともあれ貧しい小人には

無縁の数

 

どうせヒトという生きもの

同種同属で傷つけ殺しあい

他の生命を食べて生きる代物

ご大層な存在ではない

 

身を割り

まず10分の1になって、分、

さらに砕け 厘、毛、糸、

まだまだ散って 忽、微、繊、紗、

ようやく美しくなってきたぞ 塵、埃、

極致はまだか 渺、漠、模糊、

「逡巡」することなく

「須臾、瞬息、弾指」と唱え粉々に

いよいよ真実近し 刹那、六徳、

存在など無に等しく 「空虚」となって

とうとう私は

「清浄」になれるのです 

                  *「清浄」は1の―21乗

 

 

 

          *KOBE時代の代表作の1篇

 

     ゲロと詩     詩集〈いま・ここ〉所収

 

  終電車

  若い酔っぱらいが

  ゲロを吐いた

 

  捨ててこまらないものといえば

  詩集〈ムシ〉しか

  もっていなかった

 

  ちぎってバラバラにし

  まいた

 

  ゲロの上に

  散った

  詩の断片は

  新鮮で

  刺戟てきなポエムだった

 

 

   

 

             * この下に重い作品が続いたので、簡素な2篇をどうぞ。

 

       収穫     詩集『耕虫』所収

 

      ひなか

 

       畑の草をぬきとおし

 

       腰まがりになった夕ぐれ

 

       ぬいた詩を一本

 

       ぶらさげて

 

       帰る

 

 

        雪と白猫     詩集『天地返し』所収

 

       いちめんの雪のなかを

       白猫があるいている

 

       生活しているぶん

       猫はくろい

 

 

        * 「自殺」はまわりの人たちにも一生影響します。

          ぼくも永年苦痛です。自重してください。

          * 詩集〈ヒト〉〈ムシ〉などを読んで『死ぬのがアホら

しなった』と自殺をあきらめた男子高校生がいました。

  

    死生(ししょう)(がん)     詩集『半詩集』所収

 

ひさしぶりに帰ってきた

商船のボーイをしている長兄は

いつもとちがってほがらかで

つれてきた女の人とたのしそうにしゃべり

ひとつふとんでねていた

 

女の人がいなくなった翌朝

長兄は小四のぼくと中一の三兄に

帰宅時間をきいた

夏休みの前日なので10時すぎと答え

すこしおくれて帰ってくると

家のまわりに人だかりがし

となりのおばちゃんが青ーい顔して

「びっくりしたらあかんで

大きい兄ちゃんが死んだんやで」と言う

〈死〉の意味がわからず

裏口で足を洗い 奥の間にあがると

白い布をかぶせられた人が寝ており

枕もとにガスコンロがあった

家の者はみな留守で

発見したという三兄の姿もみえず

警官ふたりがこわい目でにらむし

ぼくはあそびに出た

 

お昼ごはんに帰って

母に泣いておこられた

 親孝行で 弟思いで

 まじめでやさしく男前で頭がよくて

 アル中の父に替わる大黒柱の

 自殺

母の深い悲しみがわからなかった

 

葬式の日も祭壇の裏で

タラオバンナイの真似をしてはしゃぎ

嫁ぎ先から帰っていた姉を嘆かせた

 

 

火葬場で

長兄はすっきり

骨と灰になっていた

白い頭蓋骨が

きれいだった

〈死〉は

ぼくに沁み透った

                 *片岡千恵蔵主演映画の探偵 

       

 

*きょうは62回目の広島原爆の日です。

           鎮魂と世界平和を祈り、「灯籠流し」を掲載します。

 

     灯籠流し     詩集『耕虫』所収

 

白 赤 青 ・・

闇の幽谷をぼんやり照らし

流れる灯籠

 

 

みなさんのご先祖 ご英霊のなかに

ひとつ加えさせてください

原爆ドームの側を

流したかったのだけど

果たせなかった

原 民喜さん

戦のあと

都電が散らした

青白い火花に

おののき震えたという

ヒロシマを体験してしまった詩人

    

    遠き日の石に刻み

      砂に影おち

    崩れ墜つ 天地のまなか

    一輪の花の幻 

 

「水ヲ下サイ」「夏の花」などの

絶唱を書き遺し

鉄路に身を横たえ

この世を去った

 

 

流れにのみ込まれ

つぎつぎ消える灯籠

ため息とともにもどる

― 闇

 

子どもたちの花火が

橋の上から散り落ちる

川面に映える

花の群

 

            *引用詩は原 民喜氏「碑銘」

             忌日は「花幻忌」

 

 

 

             詩集『半詩集』(1999年刊)から

   間引き

 

  二点播きだというのだが不安で

五つぶ播いたら

みんな芽が出てしまった

 

たっぷり末期の水をやる

全身を耀かせ

ここちよげに伸びをし

春の風にゆれている

 

陽光はやわやわとそそぎ

山は若い緑に燃え

小鳥の囀りはよろこびにあふれ

せせらぎは清く涼しく

真に この世は美しい

 

 ちいさいもの

 ほそいもの

ゆがんでいるもの

傷んでいるもの

不細工なもの

運がわるいもの

・・・

 

天上に気配!

 

総毛立ち

ふり仰ぐ

 

   

お洒落

 

  くろねこ(くう)ちゃん

  金緑の左目と耳の間に

うすみどりで半月形の

くっつきむしが 二つ

季節の髪かざり

 

べつの日

額から頭にかけて

クモの巣

それも鮮やかな紗の中心部

 

野ネズミ モグラ

トカゲ ヘビ 小鳥

かのヌートリアまで捕まえる

名ハンターだが

花も恥じらうお年頃

 

漆黒の胴に

波うつ イノコズチ

・・・

 

頭にのせた

雪の二ひら 三ひら

・・・

 

 

生命リレー

 

  初夏の夕暮れ

  透きとおった川の底から

  うす茶色の虫が

水圧で押し出されるように

ヒュ〜イと浮いて出

もぞもぞして背が割れ

弱々しく飛び立つ

日時を約束していたかのように

あちらでもこちらでも浮き上がる

カゲロウの羽化だ!

水面下から魚たちが襲いかかり

運わるいのは食われている

 

翅を獲得してしばらくのち

川側にカゲロウの柱が立っている

時間に追われた必死の交尾

柱からぬけ出し一匹が地面に下り

追尾した一匹が 求愛する

―ごめんなさい

 もう済んだの

やわらかくメスは翅を閉じる

  オスはあきらめふらふらと

  また坩堝(るつぼ)にもどっていく

 

  夕闇が紫から黒に近づくなか

  狂おしい群舞がつづく

 

   そういえば 俺は

   バトンを渡していない

 

 

 

 錆びた鍬

 

日の出とともに床をはなれ

谷水で顔を洗い

質素な朝食をとり

さっさと畑に出て

太陽や雨の恵みに感謝し

小鳥や風の音を聴きながら

一鍬

ひと鍬

祈りをもって耕し

日が山にかげり

一日の作業をおえるときは

鍬を一本ずつ丁寧に手入れし

きもちよく休んでもらう

 

農民のこころばえは

鍬一本見ればわかる

何十年も使われ

細くちいさくなりながら

陽光をはねかえし

かがやいている鍬を見かけると

目をそらしてしまう

 

いまの私は

錆びた鍬

なろうことなら

誇り高く光りたいが

性根を焼き直さないかぎり

無理というもの

 

きょうも

恥ずかしい己を晒して

畑に向かう

 

 

 共震

 

かすかなざわめきに目覚める

雨音 ? ・・・

川の増水 ? ・・・

全身で聴きなおす

地鳴り ? ・・・

とびおき 窓をあける

まえの山

うしろの山

山が唸っている

 

払暁の一刻

谷をゆるがす

ひぐらしの

いのち歌

 

反応している

   山野と

私が

ひびきあい

震えている

 

 

仙桜

 

暗闇の山路を登る

身もこころも疼く

 

初めての出会いは

花ひらく春

遠山と蒼穹を背景に

羞じらいつつも

己が姿を誇る風情に

恋知りそめし

 

今宵訪えとの知らせ

この胸に抱き

どのように愛撫してやろうか

 

おぼろな月光にうかびあがる

怪異な瘤々の幹

宙を舞う妖変の枝

一千年を経た

姥桜

 

放射される磁波

のびてくる腕

逃げ出すことも叶わず

はげしく抱きすくめられ

恍惚のまぐわい

・・・・・

のみこまれ

 

 

そそりたつ

おごそかな

魂の形

 

 

 (げん)(ぴん)

 

私を呼ぶものがいる

 

山家の暮らしは

川中からいにしえ人の嘆き唄がきこえ

獣の気配で起こされたりするが

谷の奥からひびいてくる

今宵の誘いは初めて

 

川幅よりすこし広い夜空の

きらめく星明かりをたよりに

蛇行する道を辿り

つめたい水につかり

石にすべりながら遡る

ほのかだった香りが

まゆまゆと濃くなるにつれ

空気が稀薄になる

ゆく手を遮る林のむこうが

ぼうっと明るい

もどかしく宙を歩くようにめぐる

 

おお あなたでしたか!

 

おぼろな(かさ)に包まれ

楚楚と光り立つ

白い 花

羞じらい身をよじるたび

狂おしい香がただよう

 

こころ(くる)めく一瞬 一瞬

夜明けなど

永遠の彼方だ

 

 

谷の精よ

一期一会の理なれば

私の命を吸いとり

千年万年分

無量大数の

種を身ごもれ

川に流せ

空中に放て

           *玄牝=玄妙不可思議な牝(母)性

 

 

   旅立ち

 

  夏の川からあらわれた天魚(あまご)

  めくるめく真実

  ・・ 恋

  水を張った器に閉じこめ

冷凍庫へ

 

  ── 四度の氷期を生き永らえてきましたが

     わたしをそこへ帰すのですか

  ゆぅらゆぅら尾鰭をゆらめかせ

  五つの飾り星のある目が

  私をみつめる

 

  目をそらさず

  ドアを閉める

 

   ウルム

   リス

   ミンデル

   ギュンツ 

   ・・

   ・

 

  

  山河にふりそそぐ陽光

  仰ぐ空は果てまで透けて

  私も

超光速で

出かけるとしよう

             * 新しいのから古いのへ4度の氷期

 

 

時辷(じすべ)

 

地球生誕46億年

ちょうどいい時代に生まれた

47億年であれば・・・

「インケツ」

うつむきかげんで生きねばなるまい

 

「4−6の笑い」とはいっても

油断はするな

〈時間〉というやつは

宇宙創生の方向に

後じさるのは朝めし前だ

 

 

ひと辷り

ズリッッッ

 

 

化生(けしょう)

 

砕けて

微塵

 

 

溶けて

 

 

昇華して

空気

 

 

森羅万象に

忍び込もう

 

 

 

           詩集『耕虫』(1993年刊)から

   耕虫

 

草が

虫が

土が

大きぃい

 

木が

山が

空が

高ぁぁい

 

地を這う

耕す虫

一匹

 

 

 嫁叩き

 

タラノキはなんであないに

棘まみれなんか・・てか

 

― 嫁叩き

 

もっとも嫁らは陰で

婆叩きゆうてたようじゃ…し

しゃもじ権を渡してからは

どんだけきつう当たってきよるか

やまとなでしこがおらんようになったのう

 

わしがこんなことゆうたゆうのんは

内緒にしといてくれよ

ここで死にたいから

 

 

    虫送り

 

野菜を受けとった都会派の先達詩人

太った青虫が 何匹も

糞ところがり出て

おもわずとびのいたそうだ

だから「虫つき野菜」と表示したのに・・

シジミ蝶が真冬に家中乱舞し

摩訶不思議 マカフシギ と

頭を悩ませた教員一家もいた

サナギの殻を見つけたときは

難問が解けた悦びがあったろう

十年に一作という大説家からは

『ぴかぴかの太陽の子

ナナホシテントウ三匹

餌の野菜も拝受』と礼状

       やはり並の神経ではない

 

       松明をかざし

       鉦や太鼓を鳴らして

害虫を送り出す行事があったが

祈りは棄てた

科学的な方法を覚えたから

 

如月八日 吹雪のきょう

保存していた白菜の

しなびた外葉をはがして

夜盗虫五匹を発見

さて だれに送ろうかナ

 

 

   春の子

 

畑にきた

二歳半のおんなの子は

いのちあふれる野山をみわたし

感に堪えたように

 

   ― 春やなぁ

 

風に髪をなびかせ

もんしろちょうを追い

うぐいすのさえずりをまね

菜の花のかんざしをしてうたう

 

   ― ずーっと ずーっと

     むかしから

     はるがすきやねん

 

 

そうめん流し

 

そうめん流しは

川でするにかぎる

まず 固めにゆでること

そうめんは沈むが

流れてしまわないよう

川を仕切れ

底に熊笹を敷き

色よい石を置くと

白無垢のそうめんが映える

三尺下がれば水清し とはいうが

ニンゲンは上流に入るな!

畑を耕して汗みどろになっておくと

渓流で冷えたビールがうまいぞ

 

ほろ酔いで

木洩れ日を浴びていると

アマゴになりたくなる

一糸まとわず淵に入る

冷たくてへそから上を浸けられず

下半身がシビレ

しばし人魚の気分

 

熊笹を三枚とって

まえを隠す

見栄とはいってくれるな

おい トマト きゅうりは丸ごと

豆腐は

手で割って流すんじゃ

 

 

   (さえず)

 

風にゆれる

  檜の若木のてっぺん

  ほそい脚でしっかり枝をつかみ

  ちいさな胸をふくらませ

  天にむかって

頬白は囀る

  ぴっちゅちゅぴーちゅい ぴー

  ぴっちゅちゅぴーちゅい ぴー

段々畑のいちばん下から

セグロセキレイが尾をふりふり

合の手をいれる

  ちゅりちゅりちゅり

 

そうだそうだ

おまえたちの春だ

雪代が流れる岸辺では

ねこやなぎが芽を吹き

蕗のとうが頭をもたげてるぞ

  ぴっちゅちゅぴーちゅい ぴー

  ちゅりちゅりちゅり

 

おれも高らかに囀りたい

縄張り宣言でも

恋をしたいのでもない

唯々腹の底から 足の裏から

囀りたいのだ

“一筆啓上つかまつり候”では

本家に負ける

センダイムシクイはまだ来ないが

まるで誂えたようなのをしばし拝借して

棚田の上で爪立ち

早春の空気を吸いこみ

  焼酎一杯 ぐぃーっ 

  もう一杯 ぐぃーっ

  潰れるまで ぐぃーっ

          *センダイムシクイの聞きなし

 

 

    収穫

 

  ひなか

 

  畑の草をぬきとおし

 

  腰まがりになった夕ぐれ

 

  ぬいた詩を一本

 

ぶらさげて

 

帰る

 

 

 

             詩集『地擦り』(1991年刊)から

    地縛り

 

  「旅に出ている」

  マチへ出て行った者をこう言う

 

  京阪神はいうにおよばず

  東京 札幌 福岡 ××

  どこそこのだれという名と共に

  口の端にのぼる

  遠い土地の名

 

  ジシバリ ジシバリ

  地に

根を張っているのか

土に

掴まれているのか

 

旅人は

帰ってこないぞ

           *ジシバリ=キク科の多年草

 

 

    鍬と俺

 

  備中鍬を

石に打ち当てる と

刃がふるえる

手から

総身に つたわり

りんかくの皮膚が震える

 

鍬と俺

共鳴している

 

 

 地球の生活

 

耕すたび

大きい石が

いくつも出てくる

 

石は地底でつくられ

ながい時間をかけて

この畑におし上げられてくる

 

腹は立つけど

おまえも生きとんやから

のう 地球よ

 

 

春よこい

 

雪がとけた土手

フキノトウを摘んでいるところへ

苦情の手紙が届く

 

六年まえオレが描いた

黒インクの点描画

    暗い宇宙にうかぶ

    胎児

    へその緒は

    宇宙の外の世界につながって

日がたつごとに

うすくち醤油のように色あせていく・・

 

オレが消えるのと

どっちが早いか

 

フキノトウの香りを体から発散させて

農具の点検をしている

 

 

空家

 

お宮さんの上のきよ婆が

大阪の息子の家で死んじゃったてなぁ

頭がふかふかするゆうて

春に引きとられていって

よう戻ってこんやろて噂しとったら

「マチにおるのはつらい」ゆうて

しーろい顔して夏に戻ってきちゃって

みなで祝うてやったのに

今度はあかんじゃったことよ

堰のハル婆も

神戸の娘のマンションでじゃった

 

杉木立の山や

丹精こめた田んぼや畑に見守られてよぉ

清々しい谷の風に吹かれて

わが家の畳の上で

死にたかったやろに

のう

 

ことしは二軒

空家ができてしもうたがい

 

 

 

燃えつきる命と競うような

ひぐらし つくつくぼうしの鳴き声が

聴こえてこないのに いま気づいた

春を告げてくれた鴬の

うれしげな囀りも去って久しい

大根を間引いている山畑に

聴こえてくるのは

湿った風の音

せせらぎ

・・・

 

小学校のチャイムは鳴らない

子どもたちの遊ぶ声もない

 

コーン カツーン

ゲートボールの乾いた音が

谷間にひびいている

  

 

   

     花貧乏     

 

  お母んよ

  ここは花の村だ

  畑の隅 庭先 道ばた わずかな所に

  あやめ 百日草 グラジオラス ゆり ・・

  腹の足しにもならんのに

  風流なことよ と見ていたら

  となりの婆さんが「花貧乏もつらい」と宣う

  ホトケさんにお供えする花だった

  そういえばどの家にも

ン百万円もしそうな仏壇が鎮座まします

 

お母んよ

加西村にうまれた 馬力引きのひとり娘が

結婚して神戸に出たが

亭主はのんだくれで早死

期待をかけた長男は二十八歳で自殺

次男も三男も四十前後で病没

養子に出そうとした四男坊は生き残ったが

「ブンガクとやらにうつつをぬかして

堅気に暮らすのがいちばんやのに……」

       心配しながら 八十三歳で逝った

       信心深かったお母んよ

 

       あんたは今

       本箱のひと隅に祀られている

       花はありあわせの

つゆ草

 

 

 

             詩集『天地返し』(1989年刊)から

    自然

 

段々畑の石垣を崩し

土は下りようとする

 

水平でいることに

無理がある

 

いったん斜面にもどって

山ごと

平らになろうとする

 

 

雪と白猫

 

いちめんの雪のなかを

白猫があるいている

 

生活しているぶん

猫はくろい

 

 

みみずと俺

 

バーナーで畑の草焼きをする

散った種も焼けるし

土の消毒にもなる

天道虫がとび

コオロギが走り

バッタ クモ カマキリ ・・・

ひっしに逃げる虫たち

 

まる裸のみみずの下半身に

火炎が当たってしまう

スベリヒユの根もとで

のたうちまわっている

ひと思いに火葬してやる

彼女は細い炭になり

つまむとほろほろくずれてしまった

 

清純な生きものが姿を消し

俺が生き残る

みな殺しの道具をもって

 

 

    アマゴ釣り      

 

  何十もの谷水を集めた清流で

類いなく美しくおいしい魚 アマゴを釣る

警戒心がつよいうえに

針を呑み 吐き出すのに0.2秒というくらい俊敏で

そう簡単には掛かってくれないが

“谷の精”と呼ぶにふさわしく

釣り上げると緑の谷に

白いブロッケンの虹がかかる

 

残雪の三月

淵から釣りはじめ

 タルミ 巻キ込ミ ワキ ヨド トロ場

水がぬるんでくると

 落チ込ミ 白泡ノ切レ 瀬ワキ トロ瀬 エグレ

藤の花が咲く頃は

 本瀬 淵尻のヒラキ カケアガリ タナ カタ

真夏には冷水と酸素を求めて荒瀬にひそみ

産卵期になると遡上をはじめ

腹をこするような小沢に移動し

餌も少なくきびしい冬は

深い淵の底でじっと春を待つ

 

疑いぶかい生きものだから

騙すには手練手管が必要で

気配を感じさせないように近づき

おいしい生き餌に小さい針をしのばせ

食わにゃ損と思わせること

 

アマゴ釣りは

木に化け

石になり

川を釣る

 

 

婚姻色の鮎

 

生簀の鮎

谷水が流し込まれているが

餌の藻類がなく

絶食のまま

 

大きく育った野鮎が

雨が降るたび

川を下りはじめる頃

囮にも選ばれず

食われもせず

命をながらえてきた生簀の鮎は

入れられたときの体長のまま

痩せほそり

ミイラがおよいでいるよう

 

じょじょに体側に浮かびあがってくる

夕焼けのような

婚姻色

 

 

外食

 

春がきた

半年ぶりに長靴をぬいで跣になり

段々畑でメシを食う

菜の花が咲きみだれ

桃の花びらがさかんに散り

うぐいす ほおじろが鳴き

谷を吹きぬける風に

鰹節がとび

たらす醤油がゆれ 皿からこぼれる

 

わが山家への来客のごちそうはただ 自然

全身で味わってもらいたいから

たとえば夏の昼食は

渓谷でのそうめん流し

 木洩れ日

   澄明な水

   熊笹や小石の上を流れるそうめん

アマゴの塩焼きは熱いまんまを

手づかみでかぶりつく

ビールは谷水でほどよく冷えて

夜は深い闇の底で

螢を見ながら

あるときは冴えた星空の下での宴

 

 

畑の石

 

掘り出された石は

黄色くまぶしそうに

ひなたぼっこしている

 

   ― 石やかて

     三年にいっぺんくらいは

     屁ぇこくぅ

 

何百年か前

祖先が掘り出し

積んだ石は

陽に灼け 雨風に晒され

深みのある色調になり

苔生し

ゆったり座り

寝そべっている

 

   ― 畑のにぎわいゆうもんやさかい

     ぜんぶ拾わんでええんじゃ

 

 

   若い鍬

 

  『詩人の商売』の金物屋で

  平鍬を分けてもらう

  店主は「やっぱり危ないわ」と

分解して包んでくれはった

 

JRのプラットホームの立ち飲み屋で

生ビールを飲みながら組み立てる

鋭利な一枚刃にぎりここちのええ長い柄

  これならニンゲンも

  ザクザク簡単に

耕せそう

  ベンチに座って鍬を見上げると

ヤツは薄目でぼくを

狙いすましている

  これか

  詩人が危ぶんでいたのは

 

なんとか連れかえって

なるべく知らん顔するけど

ミスって対面してしまうと

白い歯をみせニヤリと笑いかけてきよる

  えへへ

  近々働いてもらうけど

  気にいらんのやったら

    店に帰ってもろてもええんやで

 

  心配しとったけど

  平鍬のお兄ちゃん

  いざ畑に出たら

じいさん鍬を庇うて

土にまみれて よう働きよるわ

 

こいつより

俺の方が先に

くたばるんやろな

            *『詩人の商売』中村隆詩集 1984年刊

作品「詩人の商売」は 衣更着信氏作

 

  

 

            詩集〈クサ〉(1988年刊)から

一生

 

おばあさんの畑は

石がなくふかふかやわらかくて

作物はよくそだちますね

ぼくの畑も

石をひろって

あんな土にしたいー

 

   よしださん一代では

   むりです

 

そうなんですか

ぼくの一生

相当なことができると思っていましたが

たったそれくらいのことなんですか・・・

 

スッパリ

こころ かるくなりました

ぼちぼち

やります

 

 

    野性

 

畑で種まきをしていると

ヒュッと襲われる気配がした

反射的に身を伏せる

 

黒い影が

左うしろから走ってき

すっぽりおれを包み

すごいスピードで走り去った

 

よつんばいからおきあがり

おそるおそる行方を追うと

川をよこぎり

山の斜面をかけあがり

尾根のむこうへ消えた

 

敵は

ながれる

ちぎれ雲だった

 

おれの野性

にぶってはいない

シビレル

 

よーし こんやは

どんぶり鉢で菜の花食って

祝杯をあげよう

 

 

   クサ

 

クサは

陽の光も

雨や風も

土のなかの養分も

しっかり吸収し

のびるのびるのびるのびるのびるのびるのびる

 

百姓もどきのぼくの畑だから

ちょっと遠慮してくれよ といっても

かれらの土地でもあるし

わが畑は緑なりき としゃれてると

収穫はおちる

除草剤をつかえば

ものの三日で枯れるが

影響を考えると

おそろしくて撒けない

となると 手でぬくしかない

 

ぬいてぬいて

ぬいてぬいてぬいて

ぬいてぬいてぬいてぬいて・・・

 

そうして 何年か何十年かさき

ぼくは

クサのなかに

斃れる

 

クサたちは

なにごともなかったかのように

ぼくを肥料にして

根をはり

のび

種をとばし

ひろがってゆく

 

 

 

               詩集〈いま・ここ〉(1987年刊)から

赤ちゃんに

 

ラッシュ時の国鉄元町駅で

若いお母さんにおぶわれた

かわいい赤ちゃんに会う

ぼくは手をふってあいさつしたが

いつものように心配になる

 

この時期

見聞きしたすべてが

まっしろな大脳の旧い皮質に

刻印されてしまうのに

ケンカごしで走りまわる自動車を

鋭く尖ったビル群を

こんなに汚い都市を

―見せていいのか

それよりなにより こんなにも

陰鬱なニンゲンの群を

―見せていいのか!

 

でも まあいいや

どうせ きみらは

われわれがさんざん楽しんだカスの

この地球をひきついで

たいへんな時代を

生きてゆかねばならないんだから

それくらい鍛えておいたほうが

いいのかもしれん

 

あまりにかわいそうだから

ひとさし指と中指の間に

おや指を挿入する

例のサインを送ってやる

   元気でなぁ

   はやく大きくなって

   これでも せいぜい

愉しめよ

 

       それからは気がラクになって

       赤ちゃんを見かけると

二十一世紀の心配なぞしないで

このエールを送っている

 

 

ゲロと詩

 

終電車

若い酔っぱらいが

ゲロを吐いた

 

捨ててこまらないものといえば

詩集〈ムシ〉しか

もっていなかった

 

ちぎってバラバラにし

撒いた

 

ゲロの上に

散った

詩の断片は

新鮮で

刺戟てきなポエムだった 

 

 

逆さ地図

 

宇宙には

上も下もないのだから

地球を

逆さまに すなわち

〈南極〉を上に 〈北極〉を下に描いたら

どうなる・・?

日本列島は いまの南半球で

右上に九州 左下に北海道の弓状

 

   北極の方へ倒れ

   ずるずる日本海側へすべり落ち

   列島ごとユーラシア大陸にぶつかりそうだ

 

90度 右や左に回したら・・

 

   東西のバランスがくずれそう

   目的地とちがう方向へ行って

   世界の経済は破綻する

 

地球の内部から見たら・・

左上に北海道 右下に九州

 

   あちこちで事故が起き

   科学文明はマヒし

   地球は妙なる音の星になる

 

それをなお

南北逆さにすれば

???・・・

 

人類は発狂するのではないか

ぼくはぼくでいられるか

そんなことより

海水は

どこへ

こぼれてしまったのだ?!

 

 

 

               詩集〈ムシ〉(1986年刊)から

    減産

 

脳の空に

言葉 が

つぎからつぎへと湧き

群をつくって 飛びまわる

さながら 24時間操業の

言葉オートメーション工場だ

 

いま気づいた

言葉 で

考える ようになってから

はだしで歩かなくなった

雨にぬれなくなった

暗闇をこわがらなくなった

むかしは

太陽も水も火も土も

ピッタリ体で感じていたのに

 

主体 は

ぼく ではなく

言葉 になっていた

 

減産しよう

いまなら

まにあう

スイッチはどこだ

 

 

換気扇

 

換気孔は

音の潜望鏡

始発電車も

こどものけんかも

海峡の霧笛も

よびこんでくれる

 

でも スイッチを入れたら

ちかよらない

せっかく手にいれた部屋から

吐き出されそうで

 

 

〈ムシ〉

 

ナスの葉にとまっているのは

   ナナホシテントウ

クロマツで鳴いているのは

   アブラゼミ

ギンヤンマの死骸にむらがっているのは

   クロヤマアリ

 

ぼくの説明に

「ああ ムシか」

ぷっつり きみは言った

それから どんなに

いろんな生きものの

名前 をおしえても

 キ

   クサ

   トリ

   サカナ

   ・・・

らんぼうにひっくくってしまう

 

ぼくはなみだをながして

わらいころげたけど

内心では

自然のすばらしさをわかろうとしない

かわいそうなヒトと思っていた

 

そのうち きみは

生きものすべてを

「ムシ」と言いはじめた

ある日

「ぼくも?」とこくと

「ムシ」

あくびしながら きみは言った

 

そのとおりだ

属種なんか

区別しなくていい

ましてや

個体ごとに

名前 をつけるなんて

 

世界が

ややこしくなり

争いがふえただけ

 

にごっていたぼくの脳は

こきみよく透明になっていく

そんなことおかまいなく きみは

木かげで きもちよさそうに

ひるねしている

 

〈ムシ〉は

ねよう っと 

 

 

 

               詩集〈ヒト〉(1985年刊)から

時のしずく

 

じょぼるび じょん

       除湿器のタンクに しずく が落ちた

       あれは 使いすてにされた 時 だ

       毎夜 たまった分を 飲んでいる

 

       マイルドな液体が

食道から腹のなかへ下りていくと

たっぷり 時 ができたようで

ねむるのも こわくない

 

じょぼるび じょん

また 時 がつかまり しずく にされた

あれは ぼくの

これからの 時 ではない

 

 

  ポケットの底

 

ペニスを

じかに握れる

ジーンズのポケット

ここが境界だったとは

 

女に

つくろってもらった ら

自由 に

手がとどかなくなった

 

束縛 は

やわらかくてあたたかい

行き先をさがさなくていいし

 

でも ときどき

ポケットの底 を

まさぐる

この指はいったいなんだ

 

 

商品

 

おなじことなら

空を売りたいな

世界各地のを

このみの大きさに

チョキチョキ切って

 

北極の夜空はいかが

北極星がきらめいていますよ

オーロラをおまけします

 

前かけだって

もみ手だって

大声をだすのも へいき

むりに売らなくったって

腐りはしないし

 

アフリカの空はどうです

高く澄んで せいせいしますよ

いのちの雨は救援まちです

 

労力と時間だけなら

らくちんだね

首つきで

自分を売ってしまうから

つかれるんだな

 

えー 世界の空はいりませんか

おひとりに

おひとつ・・・

 

 

日常点描(抄)

 

ポリスボックスで

蒸発者のポスターに見入る

 

あなた方は

自我を

見失ったのか

獲得したのか

 

返事がほしい

 

終電車で

友だちの顔が

気色わるくなって

窓に映っている友だちと

しゃべった

 

彼も

窓のぼくを見ていた

 

夜の町に 吐かれたヘド

グリーンピースが

ぬれて美しい

 

消化を拒んだ肉体は

どこへ行ったのかな

妙に なつかしい

 

神はぼくの子孫を

望んではいない

 

きょうも

精虫が

共食いしている 気配

 

   ○

音階にない音

で 歌うとおっしゃいますが

音   音   の間は

測れないほどひろくて

ぜんぶ 音

が つまっているんですよ

 

とりはずし自由の

ポケットがたくさんほしい

ごちゃごちゃした人間関係を

ポイポイ入れて

いつでも てがるに

すてられるように

 

 

神の声

 

殺した

生きものの

数を 考えるときがある

アリ ミミズ ハサミムシ

トンボ セミ バッタ フナ

カエル ヘビ スズメ ・・・

 

数えきれない

いのちを奪って

ぼく一コ 生きている

ごめんなさい

ありがとう

 

電車がすべりこんでくる

ヒトがあふれている

“ちょっと押すだけでいい”

 

神の声・・

を 無視するのも

気持ちいいものだ

 

でも こう

毎日では

つかれてしまう

 

 

同居人

 

あたらしく

名前 をつくり

つかう

べつのニンゲンが

うまれ

調味料なしで

日常が おいしい

 

で つぎつぎ つくる

同居人がふえる

それぞれが

一個の

肉体と頭脳を

支配しようとする

避けようとする

 

オンナを抱く

だれが?

酒をのむのは

借金したのは

・・・?

 

醜い争いはやめてくれ

原住人の

ぼくに 任せろ

 

みんな 出て行け

と 言いたいところだが

いま いる者の

権利をみとめて

統合しよう

 

また

ひとり

ふえてしまった

 

 

 

           未刊詩集『少年期』(1989年)から

 石頭

 

―マッチ一本 火事のもと

  さんまやいても 家やくな

 火の用心(カッチ カッチ)

冬やすみ 六年の人を先頭に

火の用心にまわった

くらい町がめずらしいてドキドキした

ぎょうさんおったら子とりも出んやろ

 

いっつもおんなじもんくで

おもろないと思とったら

かけ声がとぎれてしーんとなったとき

なんやしらんきゅうに声が出てしもた

―一つ いもやのねえちゃんと

  二つ にくやのにいちゃんが

みんなわっとわらい さけびだした

 ―三は さっきのそうだんで

  四 しーりめーくって

  五で ごろんとねころんで

さっきまでおつやみたいやったのに

みんなあるだけの声はりあげよった

(女の子はくすくすわらってた)

 ―八つ やっぱりぬけません

  ・・・・・

おもろうて 二回よぶんにまわった

 

よく日 近所じゅうから

まじめにせえゆうてえらいおこられた

そやけどまじめなんて

いっこもおもろないもん

しゃあないから

―おばんけっても こたつけるな

  ヤキモチやいても 家やくな

 

夜まわり ぜんいんくびになってしもた

おとなは石頭ばっかりや

 

 

テンコチ

 

はじめて行った須磨の海はひろびろしてて

お日さんも風もきもちよかった

テンコチはようつれた

「おかず買わんと待っとく」

母ちゃんにいわれたから一所けんめいつって

はんごう一ぱいになりかけとった

 

沖に30四方くらいの黒っぽい物が

ゆぅらゆぅらうかんどって

ちょびっとずつぼくの方へ近づいてきよった

 ― なんやろ

 ― ボロちゃうか

おっちゃんらがわいわいゆうてたけど

ぼくは投げづりをつづけてた

 

どざえもんはせびろをきてた

顔はうす黄みどり色で皮ふははげちょろけ

耳は肉がのうなってペラペラで

はなも先っちょが欠けとるし

目玉があらへん

 ― 魚がつついたんや

浜は大さわぎになった

 

晩ごはん

テンコチのてんぷら

ひさしぶりのごちそうでうまかった

家の人もよろこんでくれた

 

 

 記念写真

 

戦争中に黒くぬられた校舎の屋上で

ハーモニカの学年合奏の練習をさせられた

ぼくは野球やクワガタに熱をあげてて

ぜんぜん練習していなかったので

あとの二人と合わなかったけど

てきとうにブカブジャやっていたら

わかい女のせんせいは「おかしい」と言う

なんどかやりなおしさせられ

ぼくの音がはずれているのがばれてしまった

 ― ひとりで練習しなさい

きれいな顔をはんにゃみたいにゆがめ

先生はくるっと背をむけ

やさしい声で青野や米井としゃべりだした

 ― 青野くん お父さんお母さん お元気?

 ― 米井くん この前ありがとうネ

ふたりともぼっちゃんがりの優等生で

からだも大きくいい服を着てて

前から先生たちのお気にいりだった

先生の本心を見た・・と思った

 

学芸会の記念写真

三十人ほどのほぼ中央

運動靴を

ハーモニカのようにかまえて

ぼくはうつっている

 

 

        しんちゅうぐん

       

       <しんちゅうぐん>に会ったら

       チョコレートやガムをくれる

       よだれが出そうな話が

       同級生からつたわってきた

       どんな人で

       どんな時にあらわれるのか

       だれもしらない

       うしろ指をさされる人間になるな-

              くちぐせの生まじめな母に

       聞くことはできない

 

       教室でも

       運動場 家の近くでも

       <しんちゅうぐん>がこないかと

       腹をすかしたぼくは

       道路に視線をとばしていた

       元町へいけば会えるとも聞いたが

       十一歳のぼくらには見知らぬ遠い町

       

       わすれかけていた秋の夕ぐれ

       濃い緑色のジープが

       家の前のでこぼこ道を走ってきた

       とうもろこしのひげみたいな毛で

       肌に色がついていないような

       気色わるい四人が

       長い足を折りたたんで乗っていた

       目から鼻へぬける次郎が最初にかけより

       みんなわっとジープにむらがり

       ぼくもしんがりながら

       追いかけた

        - チョコレートっ !

        - チュ-インガムくれっ !

       にやにや笑い

       走りさる<しんちゅうぐん>

 

       頭から土ぼこりをかぶり

       いまも心がジャリジャリする記憶

 

   

ソフトクリーム

 

       空母ヨークタウンの見学会が

       メリケンはとばであった

       元町本通りを 拳銃を腰に警棒をもって

       あたりをにらみつけわがもの顔で歩く

       MPに反感をだいていたが

「航空母艦」には血をわきたたせる

黒い吸引力があった

製材で左手人さし指を落とし

戦争に行けなかったヒコクミンの

父にたのみ連れていってもらった

 

セーラー服もカッコイイ

白いまつげの〈しんちゅうぐん〉たちは

日本人より頭ひとつ高く

ガムをくちゃくちゃかみながら

広い甲板をうろつくぼくらを

うすわらいして見下していた

父にかぎらず

日本の大人の人たちが背中をまるめ

うつむきかげんだったのが

腹だたしかった

 

見学を終えタラップをおりると

ソフトクリームをくれた

公園のアイスクリンがごちそうだったぼくには

舌がとろけるという形容どおりで

とつぜん

『日本が 戦争に負けた』のは

とうぜんだと納得した

             *MP=アメリカ軍の憲兵

 

 

 

 

               『合同詩集12』(2004年刊)から

 清浄

 

一、万、億、兆、京、

・・

・・・

恒河紗 こうがしゃ

阿僧祇 あそうぎ

那由多 なゆた

不可思議

無量大数

 

68個も0を並べて

何を計ろうというのか

大宇宙の果てまで光速で飛び

距離をミクロンで表しても

たかだか33桁ほどでしかない

ともあれ貧しい小人には

無縁の数

 

どうせヒトという生きもの

同種同属で傷つけ殺しあい

他の生命を食べて生きる代物

ご大層な存在ではない

 

まず身を10に割って 割

また10分の1になって 分

さらに砕け 厘、毛、糸、

まだまだ散って 忽、微、繊、紗、

ようやく美しくなってきたぞ 塵、埃、

極致はまだか 渺、漠、模糊、

「逡巡」することなく

「須臾しゅゆ、瞬息しゅんそく、弾指だんし」と唱え粉々に

いよいよ真実近し 刹那、六徳りっとく

存在など無に等しく「空虚」になって

とうとう私は

「清浄」になれるのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

      

 

 

 

 

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